【怖い話】心霊トンネルの帰り道。道路を這いずり回るクモ女【ブログ小説】

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車内はしんと静まり返っていた。

ラジオから流れるアマチュアバンドの荒削りな演奏、ルート案内のナビ音声、そして、僕らが乗っているステップワゴンのエンジン音だけが響いていた。

いまどき、幽霊トンネルに肝試しに行くなんて寂しいにもほどがある。しかも男三人で、だ。

普段、僕は心霊スポットには行かないようにしている。生まれつき霊感が強いせいか、そういう場所にいくと必ずと言っていいほど変なものを見たり聞いたりしてしまうからだ。最悪、面倒なやつが憑いてきたりもする。

「心霊スポットいこうぜ」

終業のチャイムが鳴ると同時に意気揚々と話しかけてきたのは、同じ大学に通う日向だった。

「どこに」

日向は僕に霊感あることを知っている。さすがに"視える"ことまでは話していないが、心霊に関することがあると必ずと言っていいほど僕を頼ってくる。

もちろん僕は基本的に誘いには乗らない。面倒ごとはごめんだ。だがその日は違った。

日向が行こうとしているトンネルの名前を聞いた途端に、何かとてつもなく嫌な予感に襲われた。鳥肌が立つ、とまではいかないが、どこか気持ち悪い感じがした。

「いいよ」

いくら霊感がない日向だとは言え、おかしな霊に憑かれることは否定できない。友人が幽霊に取り憑かれたなんてことになったら後味が悪い。

僕はその誘いに乗ることにした。

出発したのはその日の夜。日向が運転するステップワゴンで曰く付きの心霊トンネルに向かった。

車内にはドライバーの日向、助手席には日向の友人、そして後ろの席に僕だけが座っていた。

僕らがトンネルに到着したとき、すでに一台の車が止まっていた。黒塗りのセダンの車。車には誰も乗っていなかった。

一通りトンネル内を散策した僕らはちょうど肝試しという行為そのものに飽きてしまっていた。

「何も起きなかったな」

残念そうにそう呟いたのはやはり日向だった。このまま何も起きずに帰れば、また心霊スポットに行こうだなどと言いかねない。

「そういや、先に来てた人たちはどこに行ったのかな?」

僕はどうにか日向に恐怖を味わってもらおうと、思いつきの怪談話を作り上げることにした。

「先に来てた人たち?」

「あの黒塗りのセダンの人たちのことだよ。トンネルの先は行き止まりだろ?どこかですれ違ってなきゃおかしいんだよ」

「どこか別の場所に行ったんだろ。買い物とかさ」

「わざわざ車をこんなところに停めて、か?近くにはコンビニも自動販売機もないぜ?」

みるみるうちに日向の顔が強張っていく様子はなかなかに面白かった。これで少しは心霊スポットに対する恐怖心が芽生えたことだろう。

「さ、さぁな……。とりあえず帰ろうぜ」

どうやら、日向の心に恐怖心を植え付けることは多少なりとも成功したようだ。

恐怖で疲弊してしまっていたせいか、帰りの車内は静かなものだった。

車がカーブに差し掛かったとき、ナビの音声が一瞬だけ変な音を立てた。

「ぎゃっ、ぎゃぎゃぎゃ」

まるで、録画したビデオをスローモーションにしたときのような不気味な音。

「ん?」

僕らの意識がそこに移ったコンマ数秒後に、今度は車の足元から「どうして?」という女の声が聞こえた。喉から絞り出しているような、ため息混じりの声だった。

その声は三人ともが聞いていた。もちろん、車内には僕ら男だけしか乗っていない。

ラジオからはアマチュアバンドの曲しか流れていないし、車のナビの音声とも明らかに違う。

「な、なんだ今の?」

「ナビだろ……?」

「いや、後ろの方から聞こえたぜ?」

車内は瞬く間に混乱状態と化した。前方の信号機が赤に変わり、僕らは車内でどうにか心を落ち着けようと奮闘していた。

そのときだった。僕が交差点に中央付近に変なものを見つけてしまったのは。

ウネウネ、ジタバタ、とうごめく正体不明の物体。

よく目を凝らして見ると、それは女であるということが分かった。長い髪と細く伸びた手と足。

しかし、どうにも様子がおかしい。曲がるはずのない方向に関節が折れ曲がっており、まるで無理矢理折りたたまれたような体勢だった。

女はその状態のまま、交差点の真ん中でウネウネ、ジタバタと絶え間なく動いている。移動するわけでもなく、立ち上がるわけでもなく、女はそこにいた。

言葉に表しづらい動きなのだが、クモがひっくり返って暴れている様子をイメージしてもらうと分かりやすいだろう。

『人間じゃない』

あれほど手足がいろんな方向に折れ曲がっていれば、生きているということはまずあり得ない。

僕は思わず素っ頓狂な声をあげてしまっていた。同時にその女がいる方向を指差す。その瞬間、途端に吐き気を催し、全身に鳥肌が立った。

どうやら日向たちには女の姿は見えていないらしい。

「……いや、なんでもない」

僕はこの目で見たことを隠し通すことにした。ここで日向たちの恐怖心をさらに煽っても良かったのだが、アレは別物だ。タチが悪い。

変な声を聞いてしまったせいで、日向たちはすっかり恐怖に支配されてしまっていた。

何か嫌な予感がした僕は、念のため塩を振りかけることを提案した。近くのコンビニで食塩を買い、お互いの体に振りかけあう。

「なぁ、さっき何か変なもの見ただろ?お前があんな声出すの珍しいぜ」

日向はしたり顔で僕に訊ねてくる。だが僕は話さなかった。僕が気付いたあとすぐに、日向が車で轢いてしまったから。

車が女を轢いた瞬間、僕の頭にゲームがバグったときのような音が鳴り響いていた。

「ビ、ビィーーーーーーガガガ、ピー、ガガ……ガ」

おそらく、その音も僕にしか聞こえていなかったのだろう。とても耳障りな音だったのを覚えている。

もし人間を折り紙のように折りたたむことができるのならば、あのような姿になるのかもしれない。