リズムに乗る人たち。電車の中で起きた不思議なシンクロの話

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音楽。それは、人類が言語を使い始めるよりも前から存在していたといいます。

つまり、言葉でコミュニケーションを取るよりも先に音を使って意思疎通を図っていたんです。

雨が降れば石を叩いて喜びを表現し、獲物を狩れなかった悔しさを雄叫びで歌にした。

音楽と人類の歴史とは切っても切れない関係にあるのかもしれません。

音楽と世界が繋がる瞬間というものがこの世にはあるのかもしれません。

それと似たような現象が今起きてます。

僕は今電車に揺られて群馬の奥地へと向かっています。地元の埼玉とは打って変わり、電車が進むにつれて窓の外の白が増えてきました。

気温もぐっと下がり、空からはちらちらと雪が降り始めていました。

その光景を眺めながら僕は、両耳に挿したイヤホンでどこかの誰かの音楽を聴いてたんです。

アーティスト名は分からず、歌詞らしい歌詞もなく、民族楽器のような音がバックで鳴っている不思議な音楽。

ループを多用しており、小節が進むごとにその楽器がひとつ、またひとつと増えていくスタイルの音楽でしたね。

疲れもあったせいか、僕は音楽を聴きながらうとうとし始めてました。でも、降りる駅を通り過ぎるわけにもいかず必死に眠気と闘ってたんです。

電車の座席はいたって普通の横並びの配置。8人ほどがかけられる幅の椅子が窓際にそれぞれ並んでました。

僕は端の席で左側の手すりにもたれかかるようにして座ってたんです。

こちら側の席には僕以外の人間が誰一人として座ってません。が、正面の席にはずらっと人が並んで座ってました。端から端まで隙間なく座ってたんです。

とても不思議な光景でしたね。僕側の席には誰もいないのに、反対側の席にはぎっしりと人が詰まってる。僕はどこか変な違和感を覚えました。

それにしても眠い。音楽は絶え間なくなり続けてる。とても長い曲で、アップテンポながらもどこか懐かしさを感じる不思議なビート。

すごく心地よい。とても気持ちが良い。まるで大海原の上をスキップで渡り歩いている気分でしたね。

思わず膝でリズムを取ってしまうぐらい心地よくて、思わず指先で足をトントンとリズミカルに叩いてしまうぐらい。

しかし、妙な心地よさを感じる理由は他にもあったんです。

“僕"と"僕以外のそこ"にそれはありました。

目の前に座る8人の乗客。女子高生もいればサラリーマンもいる。おじいちゃんもいれば小学生ぐらいの男の子もいる。

新聞を読んでいたり、スマホをいじっていたり、ゲームをしていたり、人によって様々な過ごし方をしてます。

しかし、妙なシンクロがそこには感じられました。

夢かと思うほど、錯覚かと思うほど、自分の目を疑ってしまうほど不思議な光景がそこにはあったんです。

なんというか、端から端まで、座っている人間がリズムに乗ってました。「そう見えただけ」とは決して言えないほどその動きはぴったりと合ってたんです。

それはまるで訓練された兵隊のように足並みが揃ってて、時計の針のように規則正しい動きでした。

ザッ、ザッ、ダッ、ダッ。

僕の耳から入ってくる音楽のリズムに合わせて、彼らの足の動きはきちっとシンクロ。

ドラムのスネアの音がパンッ、と入るたびに彼らの足もダンッ、と床をふみ鳴らす。

僕はイヤホンをしているからその音は聞こえないんですけど、さも僕が聴いている音楽に乗っているかのような動きでした。

初めはドッキリか何かかと思いましたね。だって、僕の携帯はマナーモードに設定されているし、イヤホンをしているから外に音が漏れているわけでもありませんから。

でも、確実に僕の聴いている音楽を聴いているかのようなリズムの乗り方をしてるんですよ。

あと1分もすれば、「ドッキリ成功!」と書かれたプラカードを持ったテンションの高い芸人と、大きなカメラを抱えたカメラマンが車両の奥から現れるんじゃないかと期待をしましたが、それが現れる気配は微塵もありませんでした。

今流行りのフラッシュモブというやつかとも思いましたが、あまりに意味がないし、並んでいる人間に一貫性がなさすぎます。

第一、僕が聴いている音楽が彼らに聴こえているはずがないんですよ。一体何がどうしたというのでしょうかねぇ。

シンクロしているといっても一斉に全員の右足がダッ、と音を鳴らすだけではありません。

ある人は右足、ある人は左足、並んで2人が右足を鳴らしたと思えば、一人飛んで2人が左足を鳴らす。

どうにも表現がしにくいのですが、とにかく、僕の聴いている音楽に絶妙に、規則正しく、リズミカルにその8人の動きは合っていたんです。

まるで訓練されたショーでも見ているかのような気分でしたよ。8人は目を合わせるわけでもなく、言葉で意思疎通を図っているようにも見えませんし。

視線はスマホや新聞、ゲームに向きっきり。それにしては足の動きだけが異様に合っているんです。

一瞬だけ合っていた、なんて生半可なものではなく、それは3分以上も続きました。おそらく5分以上続いていたんじゃないかと思いますね。

時間を断言できない理由は、僕が眠気に勝てず寝てしまったから。

目を覚ましたときには目の前の席には誰も座ってませんでしたけど。

『夢だったのかな?』

慌てて音楽を流していた携帯から先ほどの曲名を確認したんですけど、あるはずの曲はどこにもありませんでした。

それからもその曲について可能な限りの情報を思い出し、様々な方向から検索をかけてみても、ついにその曲は見つからなかったんです。

やはり夢だったのだと思って、少し落胆しつつ目的の駅で降りました。外はすっかり雪景色に覆われて綺麗でしたね。

白い息を吐きながら自分の乗っていた電車をふと見送る。

すると、どこかで見覚えのある小学生ぐらいの男の子が電車の中から僕に向かって手を振っているのが見えました。

『やっぱり夢じゃなかったんだなぁ』

寒さに身を小さく震わせながらも、心はどこか暖かかったですね。

手を振り返すことはしなかったんですけど、携帯の音楽の再生ボタンをそっとタップして、音楽に乗りながら上機嫌で帰りました。

また現れてくれないかなぁ、あの集団。